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森の花ごよみ
森の花ごよみ in 2012 春の章
2012.05.11

 原始の姿を留める藻岩山の森には、今なお500余種の植物が根を下ろし、季節に応じて芽吹き、花を咲かせ、種子を結び、葉を落とし冬眠するという一連のライフスタイル(季節現象)を繰り返し営んでいる。北半球の中緯度(北緯43度)に位置する藻岩山では、冬が長く、夏が短い四季が巡ってくる。落葉広葉樹の多い藻岩山の森は、北国の四季折々の気候に応じて多彩な表情を見せる。図上の青色の曲線は、札幌市の日最高気温の平年値(札幌気象台)で、その下に一例としてオオカメノキの季節ごとのライフスタイルを示した。
今冬は、平年値を下回る低温で推移したが、4月下旬に一転して季節はずれの高温の日が続いた。森の植物達は、気まぐれな気候をどのように凌いだのだろうか。2012年の花ごよみでは、そんな思いで、自生種の木や草本に目を向け、花をキーワードにその暮らしぶりをそっと見守っていきたい。
ニリンソウ(二輪草)

 

キンポウゲ科の小型多年草
雪に閉ざされていた藻岩の森もようやく開け、林床の陽だまりにエゾエンゴサク、キバナノアマナ、キクザキイチゲ、ニリンソウ、エンレイソウ、ヒトリシズカ、オオタチツボスミレなどが次々と可憐な花を開いています。上木の葉が茂る前の早春のつかの間に営みを済ませるスプリング・エフェメラルとも呼ばれるお馴染みの一群です。その中にニリンソウは、春の山菜としても親しまれているとのことで、この春、猛毒と知られているエゾトリカブトをニリンソウと見間違い命を落としたという痛ましいニュースが報じられました。どちらもキンポウゲ科の近縁種で、切り込みの深い葉をつけ、今の季節では見分けが難しかったとのことでした。改めて人と自然とのつき合いの在り方を考えさせられることの多いこの春でもありました。
 5月1日撮影 天気 晴れ 気温(℃);最高25.4 最低12.1
ナニワズ(浪速津)

 ジンチョウゲ科の落葉小低木(雌雄異株)
山麓のエゾエンゴサクの群れの近くに、濃緑の葉の上に、鮮やかな黄色の花を開いた株が目に留まりました。季節を取り違えたようなその姿から、それはナニワズと分かりました。図鑑上では落葉の小低木とされていますが、夏に葉を落とし、冬に葉を広げ、早春の今に花を開くという、型破りの生活リズムを身につけた珍種です。上木の落葉期に葉を広げ、冬の陽光を一人占めするしたたかな戦略を身に着けて小さな命を繋いできたのだろうか?そんな思いで偶然にも出会った別名夏坊の花姿をカメラに納めてきました。
4月22日撮影 天気;晴れ 気温(℃)最高14.0 最低 4.5
キタコブシ(北辛夷)

  モクレン科の落葉高木
 5月を迎え目覚めた藻岩の森は、山麓斜面を芽吹きの色で染め、日ごとに山頂へと駆け上がります。8日、山頂斜面のダケカンバ林は、まだ冬姿で立っていました。その一角に、キタコブシが枯れ木状の枝先に、純白の大ぶりの花を開き春風に揺れていました。この日の山麓下部の斜面では、キタコブシはとうに花を終えて、葉を伸ばし一足先に春姿をみせていました。
 ちなみに、当日の最高気温は、札幌気象台(標高17m)の発表では19.9℃でした。気温は標高が100m増すごとに0.6℃低下するとのこと、この日の531mの山頂では計算の上では17℃前後になる筈。とすると、低地の市街地とは3℃の気温差があり、この差を気温の平年値でみると、おおよそ一月の開きがあり、山麓からはじまる花ごよみは、一ケ月ほど遅れて山頂に到着するという勘定になります。以上は単純な計算上のこと、頭上のキタコブシの花を愛でながらのとりとめのない早春の雑念でした。
5月8日撮影 天気;晴れ 気温(℃);最高19.9 最低7.9
ヒメイチゲ(姫一華)

キンポウゲ科の小型多年草
山頂とロープウエイ中腹駅の間に整備された自然学習歩道の初歩きを楽しみました。自然を学ぶ道にしてはいささか立派すぎる。そして、歩道の両サイドの自然植生が、工事でかく乱されていたことも気に掛けながらの散策でした。そんなサイドの林地面に予期せず可憐なヒメイチゲが迎えてくれました。茎の中間から3枚の葉を出し、その上に伸びた柄の先に5〜6枚の花びら状の萼片を開き、姫の名前に相応しい姿をみせていました。花ごよみではヒメイチゲとの初の出会いのチャンスでした。
 5月8日撮影 自然学習歩道にて
ベニイタヤ(紅板屋)

 カエデ科の落葉高木
5月の半ば、日ごとに緑を濃くする山腹に、淡い紅色の若葉を開いているベニイタヤが異彩を放っています。葉の先々に立つ小花の集まり(花序)には、両性花(雌しべと雄しべをつけている花)と雄花(雄しべだけの花)が混在していて、両性花の方は雄しべが退化し雌花化しているとのことです。一説によると、同じ花での自家受粉を避けるためだとのこと。とにかく高木の花は、地味でしかも遥か頭上で咲くために、人目を惹くことが少ないようですが、その複雑な性の仕組みは謎に包まれ興味の尽きない世界です。
5月5日撮影 天気;曇り 気温(℃)最高14.4 最低11.4 
オオカメノキ(大亀の木)

スイカズラ科の落葉低木
 ダケカンバが緑を濃くし、山頂部も初夏への装いを急いでいました。馬の背を少しのぼった登山道脇に、オオカメノキが点在し、亀の甲羅を思わせる大ぶりの葉の重なりの上に白い花の塊を点々と乗せていました。その塊は、小さな両性花の群れを大きな5枚の花弁の飾り花が縁どる紫陽花タイプの造りをしていました。飾り花は、花粉の運び屋役の昆虫を呼び寄せる役目とのことですが、その花姿には昆虫ならずとも訪れる登山者の目を惹きつけていました。
 オオカメノキは九州以北の日本列島に広く分布し、低木ながら夏には赤い実をつけ、秋には黒色に熟し、森の季節を告げるシグナル役の貴重な木です。
5月22日撮影 天気;快晴 気温(℃);最高21.6、最低8.7

シラネアオイ(白根葵)

シラネアオイ科の中型多年草
馬の背の登山道脇の草むらに、シラネアオイが見事な花を咲かせて、行き来する登山者を迎えていました。咋年は、中腹部のくぼ地に見え隠れしていて、カメラに収めるのに一苦労でしたが、今春は、思い掛けず目の下に大型の華麗な花(萼片)を開いていました。シラネアオイは1科1属1種で、植物では珍しい正真正銘の日本特産種とのこと、そんな貴重な花と出会えた晩春の藻岩山での爽やかないっときでした。
5月22日撮影

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