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森の花ごよみ
森の花ごよみ   夏の章(6月〜8月)
2011.07.23

6月も後半、森では遅咲きの一部を残し、大方の樹木が花を咲き終えて、葉をいっぱいに広げ、緑一色の夏姿に衣換えをしています。植物にとって夏は強い日差しを受け果実を実らせ、種子を育て、来シーズンに備えて栄養を蓄えるなど、一族繁栄のための大切な季節です。夏の比較的短い北国藻岩山の森は、まさに正念場の季節です。冬は葉を落として過し、夏に緑の葉をいっぱい茂らせる森は、葉を年中つけている常緑林に対して「夏緑林」とも呼ばれています。
ハクウンボク(白雲木)*花期 6月中旬〜下旬

エゴノキ科の落葉高木
藻岩山登山の途中、馬の背にさしかかると、路上に白い☆形の落花が点在し、見上げると遥か頭上の深緑の枝の先々に純白の花が群れ咲いていました。夏空に浮かぶ白雲のように見えて、聞かずともその名に違わずハクウンボクだとみてとれました。花は5つに深く裂けて星型に開き、その中心に1個の雌しべを多数の濃い黄色の雄しべが取り巻き、純白の花弁とのコントラストが鮮やかで美しい花です。
モイワラン(藻岩ラン) *花期 6月下旬

ラン科の腐生植物 
花の形や姿が、サイハイランとよく似ていますが、花期に茎の根元に葉がない点でモイワランと見分けられています。藻岩山では、登山道脇の腐朽した倒木の蔭に数本の茎を立てている姿がみられます。林地の腐植層がかく乱されない原生林内に好んで根を下ろし、腐植層の菌根菌から養分をもらって、きのこのような生活をしている変わり者で、豊かな藻岩の森を象徴する希少なランの一種です。




チシマアザミ(千島薊) *花期 6月下旬〜7月上旬

キク科の大型多年草
夏を迎えた藻岩の森は、花の気の少ない季節です。やっぱり藻岩山登山は花に迎えられる春に限る・・・。そんな雰囲気の登山道脇で、丈が人間の身長並みのスリムなチシマアザミが、茎の先に針を束ねたような花をうつ向き加減に垂れ、もの思いに耽っているような雰囲気です。かつて広く歌われた「山には山の愁いあり・・・中略・・・咲きしあざみの花ならば」(横井宏作詩)の思いに出会った夏の藻岩の森でした。
ベニバナイチヤクソウ(紅花一薬草) *花期 7月上旬〜下旬

イチヤクソウ科の常緑小型多年草
日本列島の北から南の各地に根をおろしている野草は、山と渓谷社発行の「日本の野草」によると外来種を含めて1、534種が記載されています。その殆どは、冬には葉を落として春をまつ多年草です。その中にあってイチヤクソウの仲間は、葉を着けたまま冬を過ごす限られた種類のようです。夏の花を求めて登山道脇のやや薄暗い林内に分け入ってみると、ベニバナイチヤクソウが根元から伸びた茎の先に淡い紅色の花をつけてひっそりと咲いました。周りにはまだ蕾のコイチヤクソウも小さな群れをつくっていました。
マタタビ(木天蓼) 花期 7月中旬〜下旬

マタタビ科のつる性木本
今の時期、山麓の林縁に濃い青葉に混じって点々と白いまだら模様を見かけます。その本体は、一部の葉を白く変色しているマタタビです。複雑に絡み合っているつるを持ち上げてみると、梅の花に似た美しい5弁の花が、身を隠すように下向きに揺れていました。か弱い花を風雨から守る自衛策と思われますが、反面、花粉を媒介してくれる昆虫には気付かれにくいわけです。そこで、葉を目立つ色に染めて昆虫を誘っているとの説も頷けます。写真は雄しべのみの雄花です。マタタビには雌しべと雄しべが同居している両性花をつけいる雌株があり、複雑な性形態で、初夏の森にミステリックな生活を営んでいます。
ウリノキ(瓜の木) *花期 7月中旬

ウリノキ科の落葉低木
 山麓から中腹の登山道脇の随所に、目線の高さの葉影に小さな可愛い花が目立ちます。先が3っに裂けた5角形の大型の葉の脇から、細い6個の花弁を外側にくるると巻き、鮮黄色の雄しべをのばしています(円内)。それまで目立たなかった低木ですが、夏風に揺れるその姿は、夏の藻岩の森を涼しく飾るユニークな花です。その名は葉が瓜の葉に似ていることに由来しているそうですが、最近では肝心の瓜がメロンに押され認知度が低いように思われますが、余計な思い過しでしょうか。
ソバナ(岨菜) *花期 7月中旬〜下旬

キキョウ科の中型多年草
 藻岩山は東斜面の疎林の草やぶに、青紫色の花を下げている数本の茎を発見。先が5裂している鐘状の花、葉の形、そのつき方などからモイワシャジンではと目を疑いました。手元の山草図鑑のそれとは、花冠の形がスリムで生えていた環境にも納得できず、より近いと思われるソバナと鑑定。しかし、当のソバナは図鑑上では本州から四国に分布するとなっていて、鑑定確率は50%。釈然としないままの夏の花ごよみの一日が過ぎました。
シナノキ(科の木) *花期 7月中旬〜下旬

シナノキ科の落葉高木
夏咲きのシナノキが季節を忘れずに花をつけていました。と言っても濃い緑の葉影に肝心の花は見え隠れ、補うように甘い香りを振りまいて花粉の運び屋の昆虫を誘っています。花は、葉のわきから長く伸びた柄の先に房状に開き、その付け根を細長い葉(総苞葉)にしっかりと支えられています。折しもカメラを向けたその先に珍しいお客(トンボエダシャク)が訪ねてきました。
オオウバユリ(大姥百合) *花期 7月下旬

ユリ科の大型草本
 このところの低温に蕾を閉じていたオオウバユリが、気温がよやく回復した土用の丑(21日)を機に一斉に開き、真夏の到来を告げています。このユリは、芽生えてから10年越しに開花し、種子を育てた後にその一生を終えます。真夏に姿を見せるこの大ぶりの花は、自然の厳しい摂理を映じた姿とも見てとれます。
花が咲くと、下葉(歯)が枯れてしまうことから、姥百合の名がつけられたとのこと。秋には沢山の種子が稔り、また新しい命が芽生え、10年後を目指すことでしょう。夏の森に演じられる世代交代劇の一幕です。
エゾエノキ(蝦夷榎) *花期 5月

ニレ科の落葉高木
 昆虫天国の夏の森で、エゾエノキの樹叢に多数の大型の蝶(チョウ)の乱舞が見られます。これは鮮な紫の羽根模様で名高い国蝶のオオムラサキでした。その美しさとは裏腹に、仲間同志で追っかけ合い夏空に激しい空中戦を展開しています。藻岩の森ではエゾエノキは少数派ですが、この国蝶の卵から成虫までの一生を支える掛替えのない役目を担っています。その樹林は、札幌近郊の森では点在する程度で、貴重なホットポイントと見なされています。写真の円内は、じーっと待ち続けて撮らせてもらった♂のオオムラサキです。

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